[blog]TA3MEMO
わたしにそんなこと聞かないでくれ。わたしは記憶の断片を拾い集め、過去の痕跡を追い求めつつ、故郷を探す旅の途上にある、ひとりの難民なのだから。
―ジョナス・メカス『リトアニアへの旅の追憶』
時は 1957年10月の スプートニクがまさに打ち上げられた直後 米国メリーランド州のローレルにある ジョンズホプキンズ大学付属の 応用物理研究所でのことです 月曜の朝 スプートニクが軌道を回っている というニュースが飛び込んできました ここは専門バカの巣窟で 物理屋は 誰もが 「え〜!嘘だろ 信じられないよ」という気持ちでした 研究所にいた 20代の研究者が二人 食堂のテーブルで 他の多くの研究者に混じって雑談していました ガイアーとウェイフンバックの二人です どちらかがこう言いました 「だれかこいつの音を聞いてみた? 今 宇宙で人工衛星が飛んでいるんだ 当然何か信号を送っているから チューニングしたら聞こえるかも」 何人かに尋ねて回ると 「思いつかなかった おもしろいね」 と誰もが言います
実は ウェイフンバックはマイクロ波受信技術の 専門家でしたから 研究室には増幅器が付いた 小さなアンテナもありました 二人はウェイフンバックの研究室に戻り 装置をいじり始めました 今でいうハッキングでしょうか 2時間ほど経つと 受信可能になりました 実はソ連は 追跡しやすいように スプートニクを設計していたのです ちょうど20メガヘルツですから 簡単に合わせられます ソ連は嘘だといわれたくなかったので 見つけやすくしていたのです
二人が座り込んで耳を傾けていると 研究室に人が集まりだして 「いいね!聞かせて?すごいよ」なんて言われました そしてすぐ「歴史的瞬間だ 聞いたのは米国で初めてだろうから 記録しておこう」と考えて 大きくかさばるアナログのテープレコーダーで ピー、ピーという小さなビープ音を録音し始めました さらに 録音した小さなビープ音ごとに 日時を記載しておきました そして 「あれ? 周波数がわずかに変動しているな ドップラー効果を利用して計算すれば 衛星の移動速度が わかるかもしれない」 と思いました しばらく考えを暖めると 専門分野の違う 何人かの研究者に尋ねました こう返ってきました 「すごいね ドップラー効果の変化率が分かれば 衛星がアンテナに 一番近い位置と 一番遠い位置が分かるよ これはすごいよ」
その後 許可が下りました 職務外のプロジェクトという位置づけを改め 導入直後で最新の 部屋いっぱいの大きさの UNIVACコンピュータの使用許可を得ました 計算を重ねながら 3、4週間かけて 地球をまわる衛星の正確な軌道を 描き出すことができました ある日の食事中の思いつきからスタートして 片手間の作業で かすかな信号音を聞いて それだけの所から たどり着いたのです
2週間後 上司のフランク マクルアが 二人を呼んで尋ねました 「君たちがやっているプロジェクトのことで ちょっと聞きたいことがあるんだ 位置が分かっている地上から 地球を回っている衛星のいる位置を 計算できたんだから 逆はどうだろうか? 衛星の位置が分かっているときに 地球上での位置を知ることができないだろうか?」 考えてから答えました 「できると思いますよ ちょっと計算してみましょう」 検討してから 上司のところに戻り 「こちらのほうが簡単です」と伝えると 上司は言います 「それはいいね 新しい原子力潜水艦を 作っているのだけど 太平洋の真ん中で潜水艦の位置を把握できないと モスクワ上空に向けて 正確にミサイルを発射するのはとても難しいんだ 衛星をたくさん打ち上げて潜水艦を追跡すれば 太平洋の真ん中で位置を把握できるのではないかと 思っていたんだよ この問題に取り組んでほしい」
こうしてGPSが誕生しました
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